特殊詐欺という言葉が警察庁によって正式に使用され始めたのは2004年からです。それまでは「振り込め詐欺」という名称が一般的でしたが、手口の多様化に伴い、より包括的な呼び方として「特殊詐欺」という用語が採用されました。特殊詐欺という呼称には、非対面で行われる詐欺の総称という意味が込められており、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺などが含まれています。この新しい呼称の採用により、警察や行政機関による被害防止対策がより体系的に実施されるようになりました。
【具体例】
2003年に発生した「振り込め詐欺」の代表的な事例として、息子を装った犯人が「会社の金を使い込んでしまった」と高齢者に電話をかけ、示談金名目で600万円を騙し取った事件があります。
- 時代とともに変化する手口と被害状況
特殊詐欺の手口は、社会情勢や技術の進歩に応じて巧妙化を続けています。当初は単純な電話による詐欺が主流でしたが、スマートフォンの普及やキャッシュレス決済の一般化により、手口は著しく多様化しました。特に、新型コロナウイルス感染症の流行以降は、給付金を装った詐欺や、オンラインショッピングを悪用した詐欺など、社会不安に付け込む新たな手口が次々と出現しています。また、SNSを利用した投資詐欺や、暗号資産を利用した詐欺など、若年層を狙った新手の手口も増加傾向にあります。
【具体例】
2020年には、「コロナ対策給付金の手続きに必要」と称してATMに誘導し、実際には犯人の口座に送金させる手口により、1件あたり平均100万円以上の被害が多発しました。
- 高齢化社会における特殊詐欺の深刻化
高齢化が進む日本社会において、特殊詐欺の被害は深刻な社会問題となっています。特に65歳以上の高齢者が被害者となるケースが全体の約8割を占め、年々増加傾向にあります。高齢者が狙われる理由として、日中自宅にいることが多く、電話に出る確率が高いことや、コミュニケーションを求めている心理を巧みに利用されやすいことが挙げられます。また、デジタル機器やオンラインサービスに不慣れな高齢者は、キャッシュカードの暗証番号変更や、スマートフォンの遠隔操作による不正送金などの新たな手口に対して特に脆弱です。警察庁の統計によると、特殊詐欺の被害総額は年間300億円を超え、その大部分が高齢者からの被害となっています。
具体例:
2022年、80代女性が息子を装った犯人からの電話で「会社の金を使い込んでしまった」と告げられ、約2,000万円を振り込んでしまうという被害が発生。また、75歳の男性が、キャッシュカードの偽交換を持ちかけられ、3,500万円の預金を引き出されるなどの被害も報告されています。
特殊詐欺は手口が巧妙化し、被害も深刻化の一途をたどっています。被害を防ぐためには、家族間での日常的なコミュニケーションの強化と、地域社会全体での見守り体制の構築が不可欠です。金融機関や警察との連携を強化し、不審な取引や振り込みを早期に発見できる体制作りも重要です。また、高齢者向けのデジタルリテラシー教育や、詐欺の最新手口に関する情報提供を継続的に行うことで、被害を未然に防ぐことが可能となります。私たち一人一人が特殊詐欺の実態を理解し、家族や地域の高齢者を守る意識を持つことが、この深刻な社会問題の解決への第一歩となるのです。